アイだった


君を苗床に咲く花は、「僕」は、何ひとつ伝えられなくて、
どうかこれ以上、この手で、その根を、殺めさせないで――


これ以上は思ってはいけない。
指ひとつ解きながら、胸ひとつ閉ざしていく。
「自己」は横たえれば一の羅列。
精緻な箱庭の日常は、これで何事もなく過ぎ去っていく。

沈んでいれば流されない、五感は侵されないと、
考え抜き手に入れたこの安寧は、誰にも崩させない。
指ひとつで箱庭の細胞を崩しながら、
水底でたゆたう限り、錆付くことはない。だろう?

咲く前に落ちて

まだ浮かべない。咲いた頃、君は、何もかもを「僕」に託して、
ただ見えなくなる。姿を、その手を、追いかけさせてよ――


横に沈む未完成は見えない。
そう思いながら眺めたガラス越しの同じ目が、
咲き浮かぼうともがき出すならば、
この手に託された「僕」は、ただ、
終わりまで共にあるべきだと思うんだ。

咲いていれば枯らされる、撒かれた腐敗剤が舞う。
衝動で手に入れたこの自由は、誰かが沈めるまで、
つま先から世界の飢えを吸い上げながら、
地表でゆるやかに涸れ、暗闇に錆び崩れる、だろう。

腐敗した僕は

ただ欲しかった。咲き誇る意味を、何もかも君に求めてた。
「僕」だけで歩くことは、出来ないなんて、許してくれないんだろう。


(未完成はどうやら僕のほうだ)と、酸素を得て錆び落ちながら、
形成される弱さを、指ひとつ開き、繋ぎ起こす羅列は「I」

君を苗床に咲く花は、「I」は、何もかも苛烈に咲かせて、
君が見守る世界で、歩いていく。続いていくんだ――


そっと傍らに手をついて、起きない君に告げていたのは、

――そうだそれだ、

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