『犬』

「まあ豆はいっそグズグズになるまで煮て食感と気配を忍ばせるとかさ。……それで、これからどうすんの」
「やっぱ犬に預けるのが一番良いだろ」
 テトとテッドは野営地周辺の見回り当番をこなしつつ会話する。
 さっきまでは夕飯のバリエーションを増やすべくレシピの議論をしていた。今はミコの処遇について考えている。
 ミコは本能で狩りをそつなくこなしてしまうものの、まだ人間社会のルールをほとんど知らない。動物としては成人していても人間サイドから見ればただの無知な幼女だ。教える誰かが側に居なければならない。
 二人が白羽の矢を立てたのは犬の知り合いだった。
「狼と犬じゃカレーとシチューくらい違わないか?」
「その位の差異だったら全然問題無いだろ。でもグリーンピースは彩りを添えるために入れるから気配消されるとまるで意味ないんだよな」
「それもそうかー。グンジたち大丈夫かな?」
「あいつら悪運は強そうな気配してたし、なんだかんだで大丈夫だろ。じゃあ今日は間を取ってビーフシチューで」
「ひゅー豪華ー色々手続きしなきゃだな」
「今度会うのはいつだろうな」
 話題が幾つも並行して飛び交っている。
 それでもお互いの言葉に全く悩むことなくレスポンスを返せるのが二人の特異な性質だった。普段からこの調子で喋ると周囲の人間が非常に混乱するので、二人きりの時以外は順序を付けてごく普通に会話する。
「何にせよ早く研究所戻ってモモが手入れしたふかふか布団で眠りたい」
「はげどう。骨買ってこう」
「紅茶もな」

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